アンレス・テルミナリア 感想やら
Whirlpoolより3月25日に発売された『アンレス・テルミナリア』。約二ヶ月後の今日、やっとのことで読了しました。
もちろん本作、読み終えるのに月単位の時間が必要なほど、難解な作品ではありません。むしろ読みやすいぐらい。なのに何故こんな時間がかかったのか?
やる気はあったんです。時間がなかっただけで……。
まぁそんな話はこの際どうでも良いでしょう。
ただ、全て読み切るのにある程度の期間を費やし、さらに一回通して読んだだけである、という点はご了承ください。
ではでは、早速感想をば。各キャラについて綴っていきたいと思います。
1 御厨恋
超安定のメインヒロインですね。
ズバリ一言で表せば
淫乱だなんだ言われますが、否定はできないかなぁ……。
しかし、それだけ強烈なキャラクター性があったからこそ、この物語のメインヒロインになったとも。怒涛に続くシリアス展開を軽く吹き飛ばしてくれます。
とはいえもちろん恋ルートやトゥルーでは、彼女自身が悩むことになるわけで。
そんな中で彼女というキャラクターは、いわゆる『優しい子』とは全く異なることが分かります。
祈にはとことん近づいて行くくせに、自分の問題となると一人で抱え込んでしまって、でもそれでいながら笑顔を浮かべることさえある。ズルい子だなぁと思いますし、そんなズルさが許されるのはメインヒロインの特権でしょう。
可愛いところは、主人公に好かれ始めると逆に照れ照れしてしまう部分。うぶー!
2 りな(来栖莉々奈)
友達だからね。
彼女の決め台詞みたいなところもあるこの言葉。『だからね』辺りの発音がやや舌ったらずでめっちゃ可愛いんです。
そんな彼女は、言葉通り一番の友達として、とてもとても有能なキャラでした。
特にトゥルーで祈と恋を本の世界へ連れて行くとき。ライターここドヤ顔してるんだろうなぁと思わせるぐらいの演出でしたが、大正解です。思わず「りなぁぁ!」とガッツポーズするぐらいです。
しかし共通パートなんかでは、そんな親友的活躍を見せる場面もなかったかな?
というのは、彼女の出てくるシーンの多くが、おそらく朝の目覚めと日記の確認なんですよね。特に日中だと例の廃屋でのんびりしていますから、恋の起こすイザコザにはやや巻き込まれづらい立場なのです。
そのためか、むしろ猫みたいな彼女の魅力が全面的に押し出されていました。甘えてくるところとか、それはそれで可愛かったけれども。
さて、そんな彼女ですが、礼誕祭で役割を貰ったあたりのテンションもまた、大変可愛らしかったです。
ちょっと声を高くして演じられているのが面白くて良きかな。
3 橘シャロン
あらゆる意味で可哀想な目に遭うのがこの子。
コメディチックな呆れ顔が恐らく一番似合うキャラ。
アンレス・テルミナリアの公式HPにて、最初に各キャラクターとその概要を確認したとき、「あぁこの子がツッコミかぁ」と分かるぐらいには露骨なキャラクターをしております。もちろん多少ボケたり祈を弄ったりすることもありますが、結局常識キャラに落ち着いた感じがしますね。
そして、そういうキャラは大抵、「クールの中に隠した熱血さ」みたいな魅力をもつものですが、彼女も御多分に洩れず。どころかまさしくその通りのキャラで、シャロルート・トゥルーどちらにおいても、彼女の背負う運命と活躍は涙なしに見られません。
シャロは本当に強い子でした。生意気な後輩ちゃんがかなり可愛く見えるぐらいには。
彼女の可愛いところは少し悩むんですが、ここはオカルト部でワチャワチャされた後の膨れシャロを推しておきます。
妹要素? それはちょっとよく分かんないかな。
4 ルチア=ヴァリニャーノ
可愛い。ちっこい。
でも重い!!!!!
愚かな僕は
「ヴァリニャーノ教どうやって復興するのかな? 実は学園長がめっちゃ良い人で、正しい信仰活動の手引きしてくれるのかな?」
とか思ってました。いや、結局これもこれで多少正しくはあったわけですが。
……ぶっちゃけ、ルチアが洗脳されてましたって辺りで、展開に軽く引きましたね。コメディだと思ってたものがドスンとシリアスに引き戻されたところはあります。
そんなわけでルチアルートはなかなかハードなところもありますけれど、彼女の魅力はそれを乗り越える強さだけに留まりません。
さすが教祖、あるいは先輩、彼女は誰に対しても優しく慈悲深く接するのです。例えばあの黒屋に対してまで。ルチアが彼をクロと呼んで慕っていく様は、なかなかどうして心がほっこりする場面であります。
他にも、傷心中の恋を気遣ってあげたり、トゥルーでは記憶を消されながらも祈のことを信じてくれたり。偉い!
そんな彼女の可愛いところは、色々ありますが、「頭を撫でるな!」という言葉にしておきましょう。というのも彼女の発言一つ一つ、どうにも言い方が可愛らしくてですね……。
5 学園長
ここからはサブキャラなので、軽く控えめに。
本編中かなり正体が隠され続けてきた彼女ですが、なんだかんだで普段から素ではあったのでしょうかね。鼻歌を奏でる姿はなんともキュートです。
6 黒屋
お母さんです。
トゥルーにて株が急上昇していく様は面白ささえありましたが、背負う運命にはなかなか悲しいところも多く。
良いキャラしてますよ。
7 イノリ
徹底的に「何やねんこいつ」と思わせる天才。
学園長にせよイノリにせよ、もしかして天使って口下手な存在なのですかね?
頼れる場面もあったので、言うほどの毛嫌いもしてませんが。でも体の傷とかもっと労ってあげて。
8 ポチ川先生
ワンちゃん。この作品では猫の方が強かった。
結局なんで学園長の犬だったんだろう? 特に理由もないのであればそれで良いんですが、何かしらの意味合いを感じて気になるところ。
新世界だと大学病院の先生に。優秀だ。
9 神様
最後に、触れておきたかったこのキャラ。
はっきり言いましょう。お前ろくでもないな!!!
物語の初めの方、共通パートなんかでも「神様は残酷」という言葉が出てきます。ただその時点では、まだ決まり文句の域を出ません。
露骨に神様へため息をつき始めるのは、ルチアルートですね(一応[恋→シャロン→ルチア→りな]の順で回ったことだけ付け足しておきます)。
ルチアから父・オレグへのギフト貸与に関わる多くの代償、加えてオレグがその約束を破った結果消滅したということについては、まぁ仕方ない部分でしょう。そもそもあの信徒がー云々みたいな話もありますし。
ところが問題はその後。ルチアから徹底的な罵詈雑言を受けた神様は、オレグを、父としての記憶がない状態で復活させました。何ならルチアたちの記憶の方も消しました。
え、なんで????
いっそ復活させないなら分かるんです。厳しい判断ではあるけれど、まぁでもルールを破ったのはオレグですし。ルチアが辛さを乗り越える展開も予想はできます。
あるいはパパの完全なる復活。神の慈悲ってやつですか。誰しもに起こりうる悲劇とはいえ、その原因を作り出したのは神のギフトとも言えますから、責任を取るといった意味合いで完全復活させれば、神様スゲー!な展開ですね。
で、今回はその間。
いや間どころか、そもそも問題自体が無かったことにしてしまいました。
唯一その、記憶のリセットの前後を観察できた学園長も言っています。
「君はお人形遊びをしているのかい?」
と。何か自分にとって不都合なことが起こった場合、その問題がなかったことになるようリセットする。まさしくゲーム感覚ですね。
この悪行はルチアルートに留まらず、トゥルーでも同じことをやりました。しかもトゥルーだと結局祈たちに暴かれ、挙句の果てにはその姿を顕現させて説得しようとしてました。
ルチアルートで信徒Aに『汝に信仰を禁ずる』とか言ってたの普通にカッコよかったのに、今にして思い返すと「小物のイキリ」にしか見えなくなってきちゃうのは……何ともかんとも。
そういう訳でかなりアレな存在の神様ですが、ただ一点。
あの世界ではあらゆる事象の根源に神様がいて、どんなにクソ喰らえな出来事も「神様サイテー!」で済んでしまうんですよね。なので神様がある種の必要悪みたいな存在になってしまい、事あるごとに「おのれ神様!」と叫ばれても仕方ない立場に彼はいるんです。
祈たちの創造した新世界では神様がいなくなり、現代で言うところの信仰の自由的なものが作られることになると思いますが、不可避な「神様のせいにしたくなる現実」が現れた時に、じゃあ今度は果たしてどうするか……みたいな話が本作のオチに繋がるなぁ、と思いました。
色々言いましたが、何にせよここの神様はとかく悪い印象ばかりが募る、良いラスボスでした。キャラとしては嫌いじゃないよ。
10 総評
ここでは作品全体の印象について。
ストーリーはめっちゃ面白かったです。先にも述べた通り、二番目にシャロンのルートを読んでいて、それが良かったかなと。
当然これはシャロンの魅力を伝えるルートなんですが、同時にその世界の闇の深さ、神様の意地の悪さ、イノリや『獣』についての匂わせなどなど。得られた情報量は恐らく一番多いルートで、他のルートやトゥルーが楽しみになる話でした。
ルチアルートも割と同様の印象を受けます。あえて言えばパパ関連が完全にルチアのお話なので、より物語の深みにハマれるのはシャロンルートですかね。ただ少なくとも、ルチアをヒロインとしたお話で完結していました。
逆にりなルートは……うん。
そもそもりな、つまり莉々奈の正体を明かすためには祈の『審判者』なるギフトを明らかにしなければならないわけで。そこまでやるとトゥルーに片足突っ込んじゃうんですよね。
だから仕方ないと言えば仕方ないんでしょうが、初めて読んだときは、最後らへん全般的に謎でした。『お前のギフトが彼女を消したんだ』とか言われてもそのギフトが分かんねえしな……みたいな。
恋ルートはぶつ切りエンドでトゥルーに続くので、これに限って話すようなことはないんですが、いっそ恋ルートで祈の『審判者』まで出しても良かったのかな?とは思います。
もちろんそこが物語的には一番の山場ではありますが、いかんせんあらゆる原因に『審判者』が絡んでしまうので、個別ルートを読んでいる際「結局これは何でなの?」となる箇所が多いです。
それこそ『審判者』の話を個別ルートで取り扱えるレベルにまで落とせたなら、りなルートがもっと分かりやすくなったはずですし。その辺りの掘り下げは少々不満の残るものではありました。
とはいえ、それだけひた隠しにしてきた分、やはりトゥルーは怒涛の展開と回収で総じて面白かったかなと。ルチアが視力失ってシャロが彼女を庇う辺りの重さもめっちゃ好きです。
あぁでも最初の時系列だけはちょっと分かりづらかったですかね。急にイノリの独白とヒロイン視点で始まるので、どこの話をしているのか少々時間を有しました。
それからこれは、話の面白さとはまた別な視点なんですが、ややキャラの推しが甘いなと感じました。
推し、というのはつまり、各ヒロインの可愛さです。
例えば、最近の風潮では、伏線回収をするような小説は非常にウケが良いですよね。これはまさしく「話の面白い」小説です。多分これって推理小説あるいは科学の発展に基づいた、「全体としての小説」の評価なんですよね。
もちろんその評価が間違っているとか言うつもりは無くて、それはそれで大事なポイントだと思います。実際そういう、伏線回収をバンバンやるような作品は見ていて面白いですから。
ただ一方で、美少女系のビジュアルノベルについてはもう一つ大事なことがあって、それが「キャラの推し」なんです。
小説とビジュアルノベルの露骨に違う点を挙げるとすれば、読者の意気込みです。
小説を買うとき、大体の人は「面白い話が読みたい!」と思うでしょう。それで結果的に可愛いキャラ格好いいキャラと出会うことこそあれ、初めから自分の好きなキャラを求めて小説に手を出す人はまぁなかなか見られません。
しかしビジュアルノベルであれば、「この娘可愛い!」となって買う人が普通に出てきます。あるいは話の面白さ目的で買っても、それと同じくらいキャラ目的で読んでいる人も出てくるでしょう。
だから小説とは違って、ビジュアルで見せたキャラの可愛さをより補完するようなエピソード作りが、ノベルの役割の一つなんです。
ではアンレス・テルミナリアに戻って、ルチアに注目してみましょう。
ルチアの外見をパッと見て得られる印象は、小さい子、まぁ端的に言えば『ロリ』です。するとこの作品を買う人の中には、『ロリ』の可愛さ目当ての人が出てくるわけですね。
そうした時に、これは本編中にも出てくる描写ですが、「ルチアはオムライスが好き」「でも玉ねぎは食べられない」みたいな情報をテキストで出すことで、彼女の『ロリ』なる魅力がより輝くのです。
ただもちろんルチアとして出したい可愛さはロリだけでなく、例えば『周りを気遣える』なんてところもあります。これは、描写としては「困っている人、傷ついている人の支えになってあげようとする」あたりが登場しましたが。
この辺りの描き込みが少し物足りなかったんですよね。というのが、推しが甘いと言ったところに繋がります。
間違いなくヒロインは四人とも、それぞれたくさんの魅力があって、そして文章の展開でもそれらを描こうとしているのが読み取れました。でも、自分的にはもっと欲しかった。
もっとガツガツした、「この娘可愛いですよね!」みたいな勢いが欲しかったなぁ、と思います。
最後に
というわけで結構長く感想のようなものを記しましたが、なんだかんだはありつつも良い作品だったなぁというか。各ルートでの熱い展開と伏線回収はかなり良い出来だったので、それで良いんじゃないかなぁと思います。
……別に適当言ってるわけじゃなくて、「足りない部分があっても良いからその魅力を十二分に出す」的な作品もまた評価できるってことですね。何だったらそっちの方が評価できるかもしれません。
あと個人的には、黒屋が積極的に関わってきたのもポイント高いです。親友ポジの男子にはウザいくらい話に関わってきてもらいたい派なので。
他の観点で行くと、人におすすめできる作品でもあるなって思います。何せ話が面白いので、万人にある程度の評価を受ける作品でしょう。Whirlpool絵は結構独特なんで、そこに問題がなければですが。
Whirlpoolといえば、僕は『初情スプリンクル』から当ブランドに触れた人類なので、どうしてもWhirlpoolの作品をコメディで見てしまうんですよね。
で、そういうところでも相変わらず面白いなと思います。あの会話のテンポ感、間違いなくWhirlpoolの武器。
最後の最後、タイトルについて触れて終わりにします。
アンレス・テルミナリア。アンレスは「〜で無ければ」で問題ないでしょう。
大事なのはテルミナリア=“terminalia“。この辺の話はwikipediaをチラ見しただけなんですが、曰くテルミナリアとはローマ神話に登場する神テルミヌスを讃える祭りらしいです。
お祭りと言えば、『礼誕祭』との関連が浮かばれますね。実際あれも神様を讃える祭りでした。
というわけでタイトルの意味は「もし神様を讃える祭りでないのなら」。礼誕祭から始まる、神様や運命に反旗を翻した祈たちを彷彿とさせるようなタイトルですね。
……で、これだけでは面白くないかと。
テルミヌスは神様ですが、特に「境界」を守る神様です。実際テルミナリアでは境界を示す石を神聖なものと考えるとか。
では、アンレス・テルミナリア本編における境界とは何か。
一つは学園、つまりサナトリウムのことではないでしょうか。ギフトなる境界石によって、それを持つものと持たないものに厳格に分けられていた世界が、神様の支配していた世界でした。
でも新世界ではギフトは無くなります。つまり、人々の間から「境界」が消えるのです。
別な解釈もあります。それは、人間と神様との境界です。
本来、人間界に完全なる不介入の姿勢を示していた神様ですが、物語の終盤ではついに介入してしまいます。結果、人と神との「境界」は消えてしまうのです。
あるいは生死。物語中では、おそらく魂か何かだと思いますが、それが消えて霊が現世に蔓延る展開があります。
またあるいは、過去と現在。主人公、祈にとって、彼自身の過去はしかし彼自身のものでなく、本の中の出来事にすぎなかったんです。
そして、これら全ての繋がりに、祈の『審判者』があります。
祈のギフトによって、「尊いもの」と「そうでないもの」に分かたれようとしていた世界。
でも彼らは、そんな境界がない世界を望み、手に入れた。
これこそ、アンレス・テルミナリアなる作品ではないでしょうか。